0027 号 巻頭言

Rails と日本

Rubyist Magazine 第 27 号をお届けする。

今号は、るびま刊行 5 周年を記念して、恒例の 【五周年記念企画】 Rubyist Magazine へのたより、 そしてささださんによるふりかえり記事の Rubyist Magazine 五周年、 地味に需要は多いけど資料が少なめな Ruby による Excel の操作についてこしばさんが説明する VBA より便利で手軽 Excel 操作スクリプト言語「Ruby」へのお誘い (前編)、 Ruby で LDAP を使いこなすためのライブラリである ActiveLdap を、LDAP の基礎から高瀬さんが説明する ActiveLdap を使ってみよう(前編)、 DirectX を使ったゲームが Ruby で作れるようになる DXRuby について mirichi さんが解説する Ruby から DirectX を扱う簡単高速ゲームライブラリ DXRuby の紹介、 ただの Rubyist にもできることはいっぱいあるとかずひこさんが提案する Rubyist にできること、 RubyKaigi2009 のさなかに行われた地域 Ruby 会議についての会議の様子をレポートする RegionalRubyKaigi レポート (特別編) RegionalRubyKaigiKaigi、 中国の Rubyist バオ=クゲンさんを天狗こと増満さんが紹介する 中国の若きエンジニアの肖像 【第 1 回】 バオ=クゲンさん、 浜地さんによるおなじみの るびまゴルフ 【第 7 回】、 翔泳社様にご協力により最近出版された Ruby の書籍をプレゼントさせていただくことになった 0027 号 読者プレゼント、 そして Ruby 関連ニュースRuby 関連イベント となっている。


先日、日本 Ruby の会が 5 周年を迎えた。 そして、Ruby の会の設立当初から開始されたこのるびまこと Rubyist Magazine も、同じく 5 周年を迎えることとなった。 これについては、読者諸賢のご支援ご協力があってのことと存じ上げている。 あらためてこの場を借りてお礼申し上げたい。どうもありがとうございます。

7 月に開催された日本 Ruby 会議 2009 でも、ささださんによるるびまのセッションがあり、 そこでこれまでのるびまの経緯や今後の展望について述べられた。 るびま好きの読者の方々も、当セッションに参加されるか、 または ustream の動画を閲覧されていることと思われる。 もし何かの事情で見られていない方は、 現在すでに公開されている ustream 録画か、 後日公開される予定の公式録画をご覧いただければ幸いである。

ところでその RubyKaigi だが、 RubyKaigi において Ruby on Rails があまり取り上げられていないのではないか、 そもそも RubyKaigi には Rails を忌避ないし蔑視する意向があるのではないか、という声があった。 が、それは誤解のはずである。 RubyKaigi スタッフとしては、特に Rails だけを取り上げないということも、 同時に Rails だけを取り上げるということもない。

とはいえ、世間というか、Rubyist コミュニティ内外における Rails への評価に比較すれば、 RubyKaigi で Rails の影というか、存在感が圧倒的に薄いことは否定できない。 いや、実際のところは、Ruby をとりまく環境の中で、 Rails があまりにずばぬけて存在感を示しているため、 Rails を特別扱いをしなければ、内外の評価に並ばない、ということなのだろう。 しかしながら、RubyKaigi の思惑としては、あまり特定のフレームワークを支援することはないだろう。 あくまで Ruby のエコシステム全体を考えた上で、興味深いトピックをそれぞれ取り集める、という形になる。

このような現状を改善するにはどうすればよいだろうか。まず考えられるのは、 RubyKaigi という Ruby のイベントにその場所を求めることをやめ、 新たなイベントを立ち上げる、という方向である。 そもそもが Ruby 全体にリーチするイベントで、Rails にフォーカスするには限界がある。 ならば、Rails にフォーカスしたイベントを取り上げ、Ruby というよりも Rails に興味を持つ者を集めた方が適切だろう。

実は International Ruby Conference も、RubyKaigi 同様 Rails の影が薄い。 その理由の一つは、アメリカには RubyConf 以外にも、RailsConf があるためだと思われる。 私は RailsConf には参加した経験がないが、両方のイベントに参加した方の感想によれば、 イベント自体は RailsConf の方が圧倒的に大きく、 またイベントの印象も RubyConf に負けないほど素晴らしいものだと聞いてる。

そして、RailsConf の日本版というべきか、RubyKaigi の Rails 版というべきか、 そのような Rails イベントを日本で立ち上げようとしている動きが、国内の一部で始まっている。 詳細を含めて公式にアナウンスされるのはもう少し先になりそうだが、 現在鋭意準備中とのことである。 こちらが開催されるようになれば、RubyKaigi との関係は改善されるように思われる。

しかしながら、一番の大きな問題は、Rails のムーブメントが国内においてそれほど高まっていない、 という点にあるように思う。

それは利用の面からも、あるいは開発の面からも言える。 Rails が使われることは決してそれほど低くないとはいえ、誰でも当たり前のように使われる、 というよりは、決まった条件のもとで使われるか、 または決まった人が当たり前のように使われる、というところだろう。 そしてその範囲は、期待されたほどには広がっていない、 そして広まる速度も、期待されたほどには速まっていないように思われる。

それは開発の面でも言える。 RubyKaigi での松田氏での発表で、 Rails 開発のピラミッド構造のモデルを提示していたが、 そのピラミッドの上部にしろ下部にしろ、日本のプレゼンスは低い。 日本人のコミッターがいないことはさておき、頻繁に patch を投げては取り込まれている、 という日本の開発者も少ないように見える。 イベントの開催の話がこれまでなかなか実現しなかったのも、 Ruby についてはコアの開発者からライブラリやアプリケーションの開発者まで多くいるのに比べ、 Rails については日本での開発コミュニティが上部でも下部でも広がっていないことと、背景とは無縁ではないだろう。

では、どうすれば Rails がもっと広まるようになるのか。

……ということを、しばらく(巻頭言の締切を一週間ほど過ぎるくらいまで)考えてみたのだが、 いい考えが思いつかない(いつも締切守れなくてごめんなさい)。私はつくづく普及について語る役割に向いていないと痛感する。

そこで、少し考え方を変えてみる。 Rails を実態として広い範囲に普及させるよりも先に、 盛り上がっている雰囲気を内外に対し、 積極的にアピールする、というのはどうだろうか。

もちろん、存在しない「雰囲気」をでっち上げるのでは何の意味もない。 しかしながら、「盛り上がっている雰囲気」というのは、 実はごくごく狭い、局所的な場所での盛り上がりであっても、 広い範囲に対して影響力がもてるのではないか。

思えば Ruby も、20 世紀末から 21 世紀初頭にかけて、 「盛り上がっている」というのはいわゆる「一部の人」の間だけであった。 しかし、その一部の人の間では、その盛り上がりは何物にも代え難いほど真実であった。 そもそもプログラミング言語を開発する、 という話題で盛り上がれるのは、その一部の人くらいの母集団しかなかった。 今でこそ年次の LL イベントでは 1000 人規模の会場でも見劣りしないほどの集客があり、 さらに Ruby、PHP、Perl といった各言語でも数百人規模で 2 日以上のイベントを開催できるほど、 プログラミング言語のコミュニティが広まっている。 だが、国内で「Ruby という言語がいいらしい」という話が出始めたころには、 そのようなコミュニティの存在は可視化されていなかった。

おそらくその頃から LL を利用する環境自体が大きく変化したことはないとは思われるが、 それでも現在、国内で LL は興隆を極めているように見える。 それは、やはり LL に関わる開発者が、自分たちのことを、その狭い世界の中だけだった かもしれないが、積極的にアピールする場を作り、アピールし続けて来たことによる ものが大きいのだと、今にして思う。

それならば、Rails についても同様だろう。 日本において Rails を広めることよりも、 国内外に対して、 新たな技術をアピールする方に務めたことも大切なのかもしれない。

冒頭で述べた通り、Ruby の会は 5 周年を迎えた。 そして実は Rails も、0.5 がリリースされた日からは、今年の 7 月で 5 周年を迎えたばかりである。 Ruby の 10 年を越える歴史の中で、同じ頃に生まれた、Ruby の会、Rubyist Magazine、Ruby on Rails が歩んで来たこの 5 年を振り返りつつ、このようなことを考えている。

Last modified:2009/09/13 14:06:46
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References:[Rubyist Magazine 0027 号] [各号目次] [prep-0027]