「RubyKaigi 2023 Recap」日本語版

この記事は Michelle Tan 氏による「RubyKaigi 2023 Recap」の全訳です。原著者の許可を得て、Rubyist Magazine で公開します。

RubyKaigi 2023 に参加した感想やレポートは ruby-jp の Scrapbox にとてもよくまとまっています。そちらもあわせてご覧ください。

RubyKaigi 2023

私が開発者向けのカンファレンスに参加したのは 3 年以上ぶりで、最後に参加したのはパンデミック前のことで、それは私が運営を手伝ったカンファレンス でした。今週末に RubyKaigi 2023 で松本に向かうにあたっては、何を期待すればよいのかわかっていませんでしたが、カンファレンスの質の高さとコミュニティの暖かさがとても印象に残っています。トークのなかには、理解するのが難しいものもありましたが (私はまだ Ruby を始めて 4 ヶ月でしかないので、それはそうだと思います)、それを補って余りある体験ができたので、参加して本当によかったと思います。

RubyKaigi とは

RubyKaigi はプログラミング言語 Ruby に関する国際カンファレンスで、毎年日本で開催されています1。その目的はオープンソースの開発者に対して、自分たちの取り組んでいるクールな諸々について話せる機会を提供することで、日本語話者と英語話者の両者をサポートしています。RubyKaigi は毎年異なる都市で開催することで、参加者に開催地域の魅力を伝えようとしています。今年は世界中から約 1,200 名の参加者を松本市へと迎え入れました。

トーク

3 日間の会期の内訳はトークが 43、ライトニングトークが 12、キーノートが 3、パネルが 1 でした。私が非常に感銘を受けたのは、日本語のトークに英語話者がアクセスしやすくなるように多大な労力が払われていたことです。すべての日本語によるプレゼンテーションには同時通訳 ( とても素晴らしかったです ) と英語の字幕 ( つねに素晴しいというわけではありませんでした ) が用意されており、私が聴講したトークではスライドも英語でした。

トークの内容はかなり技術的でしたが、基本的に登壇者の皆さんは、私のような限られた Ruby の経験しかない人でも話に付いていけるような説明の仕方をしてくれました。それでも、なかには全くちんぷんかんぷんなものもありました。最初は「私が十分に技術的ではない」からだと思っていたのですが、後で他の人に聞いてみたところ、彼らも完全には理解できていないとのことでした。どうやらこれが「RubyKaigi 流」だということがわかりました。他のカンファレンスが登壇者のプレゼンテーションを重視しているのとは異なり、RubyKaigi では登壇者そのものにより重点を置いていて、彼らに自身の Ruby にかける情熱やコントリビューションを披露する機会を与えているのです。

私のお気に入りのトークは「Ruby vs Kickboxer」です。これは遠隔操作可能なプールヌードル2をスパーリング相手にするというトークで、オーストラリア人のカップル ( 私と出身が同じ!) がプレゼンテーションをしました。登壇者がステージで殴り合うのを見たのはこれが初めてです。その次にお気に入りのトークは「The Second Oldest Bug」です。トークでは Ruby のような言語のバグを修正するための考え方や進め方、判断の下し方について、興味深い考察が示されました。解決策に至るまでの紆余曲折を登壇者と一緒に辿っていくようなプレセンテーションがとても楽しかったです。

もう 1 つの見どころは、会期 Day 3 の朝のパネル「Ruby Committers and the World」です。Ruby そのものを開発している人たちの考えや議論を聞けることはとても興味ぶかかったです。開発者として私は自分の使っている言語がどうやって存在しているのかや、そのように存在するに至る決断がどのように下されるのかは、自分のやりたいことがやれている限り、深く考えたことはありませんでした。しかし、ここではとてもスマートな人たちが、私の目の前でまさにそうした話をしていたのです。彼らがプログラミング言語に求めるものについてお互いに話し合う様子がうかがえて、コミュニティがプログラミング言語を開発する過程を垣間見ることができたのはとても魅力的でした。

コミュニティ

カンファレンス最終日に私は「Mats Is Nice And So We Are Nice (MINASWAN)」というフレーズを知りました。この言い回しは、私がこの週末に体験したことを見事に言いあらわしているように思います。誰もがとてもナイスで、誰からも歓迎されました。私はそれまで開発者向けのカンファレンスに単独で参加したことはなかったので、到着初日はかなり緊張していました。ですが、会期を通してどこかしらで会った人たちは皆、繰り返し私に挨拶してくれたり、彼らの友人を紹介してくれたりしました。最終日には、どこにでも誰かしら顔なじみがいて、おしゃべりしたり手を振ったりできるような気分になりました。

日本ではまだ Twitter が主要なソーシャルメディアとして使われています。会期終了後も、私の Twitter フィードは RubyKaigi の話題で持ち切りで、#RubyFriends や 「RubyKaigi 誰も撮ってなさそうな写真(原文ママ)」などがたくさん投稿されていました。こうしたタグのおかげで、なんだか私もコミュニティの一員になれたような気がしました。カンファレンスが終わった後でも、それぞれのカンファレンスへの愛をシェアするようなコミュニティが存在することはほんとうに素晴しいと思います。

スポンサー

29 の企業がスポンサーブース出展をしていました。会期初日の終了時点ですでに私のスーツケースの半分を占めるほどたくさんのグッズ をもらっていました。グッズとしては食べ物が人気でした。なかには受け取ったカレールーと米、りんご (そうなんです、りんごを配っている企業もいました) の写真に「カレーに必要な材料がすべて揃いました」とコメントを添えてツイートしている参加者もいました。

参加者にすべてのスポンサーブースを訪れてもらうために、公式のスタンプラリーも実施されていました。スタンプをすべて集めた参加者は、複数のピンバッジ (なかには「Matz のサイン」のピンバッジもありました ) からひとつを選んで景品としてもらうことができました。スタンプが人々をブースに向かわせる一方で、多くのスポンサーが独自の企画を用意していました。最も斬新だったのは、お酒に強いか弱いかがわかるパッチテストだったと思います (そのブースでの景品は、あらゆるスポンサーグッズを収納して持ち運べる巨大なトートバッグでした)。こうした独創的な取り組みは、打ち解けた会話の場を生み出していて、私はとても気に入りました。スポンサーブースは楽しくて、カンファレンスに欠かせない要素となっていました。

松本と RubyKaigi の影響

私は夜行バスで Day 0 3に松本に到着しました。その日は松本城や草間彌生展といった観光スポットを訪れたり、蕎麦や山賊焼き、馬刺しといった地元の名物を試したりしました。松本に到着した当初は噴水に「飲用不可」と書いてあるのを見て「それはそう」と思っていましたが、すぐに松本では、町を彩る湧き水は飲めるのが普通だということに気づきました。松本はとてもきれいで素敵なところです。

カンファレンスがあるので、どこにでも Rubyist がいました。Day 0 にご飯を食べにいったお店にも Rubyist がいました。会期中は、指定されたお店で使えるバウチャーが配られたので、Rubyist がいないお店を見つけてご飯を食べるのに苦労するほどでした! ランチタイムが 2 時間あったのもよかったです。Day 2 のランチで入った蕎麦屋さんの座席は 1 組の老夫婦以外は全員 Rubyist だったと思います。

私は町の探索を奨励する仕掛けが気に入りましたし、カンファレンスの運営がみんなに松本を紹介しようとした試みは、特に日本国外から訪れた人たちに対して、うまく機能したと思います。

アフターパーティ

公式のドリンクアップやアフターパーティがいくつも企画されていましたが、私が気づいたときにはどれも満員でした。幸いそのような人は私だけではなかったので、つながりを持てた人たちを過ごすのに忙しい毎晩となりました。エモリハウス の女性たちと一緒に遊んで、WNB.rb のメンバーたちと会食し、日本国外からの参加者や登壇者たちとカラオケに行きました。カンファレンス公式の催しには参加できませんでしたが、毎日をおいしい食事とお酒を素晴しい仲間たちと楽しむことができました。

日本の人たちはアフターパーティの過ごし方の達人です。私は最終日である 3 日目の夜を最大限に楽しもうと決めましたが、それでも午前 2 時頃には落ち着くだろうと思っていました。そんな予想は外れました。夜はまずRails Girls Nagasaki の友人たちと居酒屋で始まり、カンファレンスや IT 業界全般について語り合いました。そこから RubyMusicMixin2023 に移動して、午前 2 時まで DJ が流す大音量の音楽に合わせて、大声をあげたり下手なダンスをしたりしました (最高でした)。それからラーメン を食べるのに付いていったら午前 5 時で、その後は午前 6 時までコンビニの前でお酒を飲んでいました。さすがにホテルに荷物を取りに戻ろうと思いましたがところがぎっちょん、川のほとりに集まっておしゃべりしていた人たち に混じりに行きました。そこには Chief Organizer の松田さんもいたので、RubyKaigi が目指すところについて詳しく教えてもらいました。最後に、そこから何人かと一緒にコーヒーを飲みに行きました。午前 7 時でした。

どうやら日本のイベントではカンファレンスではなくアフターパーティで交流がなされることが多いようなので、日本で人々と交流を持ちたければ、そのつもりで計画しておくのがよさそうです (飲み会に参加する時間と、そこから回復するための時間を確保しましょう)。

まとめ

RubyKaigi で素敵な時間を過ごせたので、2024 年の沖縄にも参加したいと思っています。RubyKaigi は、すばらしい Ruby コミュニティへと私の関心を向けさせ、もっと Ruby に詳しくなりたい、Ruby で何か新しいことを試したい、Ruby になにかお返しをしたいと私に思わせてくれるイベントでした。オーガイナイザー、登壇者、スポンサー、ヘルパー、それから参加者の皆さんには非常に感謝しています。皆さんなくしてカンファレンスは存在できません。また、TokyoDev が参加を勧めてくれたことにもとても感謝しています。来年にはもっと深い技術的なトークが理解できるようになっていますように!

著者・訳者について

Michelle Tan (著)

TokyoDev コントリビューター

Michelle はオーストラリア人のソフトウェア開発者で、2022 年に日本へ移住しました。活発なコミュニティメンバーである彼女は、旅行やイラスト、テック業界におけるダイバーシティとインクルージョンの推進とメンタリングに情熱を注いでいます。

かくたに (訳)

個人事業主。一般社団法人日本 Ruby の会理事。RubyKaigi Señor Organizer。『研鑽 Ruby プログラミング』 訳者 (買ってくれ〜!!!q)。GitHub: @kakutani, Twitter: @kakutani

訳者より: Ruby 歴 4 ヶ月で英語話者が、初参加の RubyKaigi を隅から隅まで楽しんでいる様子 ( 若干「命を削っている」のではないかと心配な局面もありますが……) に感銘を受けましたが、残念なことに英語のままだと日本語話者の Rubyist の皆さんに広くリーチしないので、るびまの場を借りて日本語版をお届けします。酒や「川」といった面白行動だけでなく、トークを楽しんでいる様子も伝わるといいなと思っています。もし来年、那覇で ( 那覇に限りませんが ) Michelle を見かけたら声をかけてみてください (For Japanese Rubyists: I was truly impressed by how a Rubyist, with just four months of experience and being a non-native Japanese speaker, fully enjoyed her first-ever RubyKaigi experience from start to finish (although there were moments when I was slightly concerned she might be ‘burning the candle at both ends’). Unfortunately, as the original article was written in English, it doesn’t reach the wider community of Japanese-speaking Rubyists. So, I’m taking advantage of the ‘Rubima’ platform to deliver a Japanese version. I hope you’ll not only enjoy the recounting of fun activities involving drinks and #rubyriver thing, but also the enjoyment of the talks themselves. And if you see Michelle in Naha next year (or other locations), don’t hesitate to say hello to her :wave:)。

訳注

  1. 訳注: RubyKaigi は 2006 年からほぼ毎年開催されていますが、2012 年は開催されていません。さらに細かい話では、2020 年の RubyKaigi Takeout 2020 は キャンセルされた RubyKaigi 2020 の代替イベントで、同様に 2021 年も正確には RubyKaigi 2021 は開催されていません (この年、開催されたのは RubyKaigi 2021 Takeout です)。つまり 2012 年、2020 年、2021 年に RubyKaigi は開催されていません。 

  2. 訳注: プールヌードルとは発泡ポリエチレン製の柔らかいの円筒形の棒のようなもので……と説明する よりも実際のトークの動画 をご覧になれば一目瞭然だと思います 

  3. 訳注: RubyKaigi の会期カウントは Day 1..3 と 1 オリジンなので、 会期前日は「Day 0」と呼びならわされています