書いた人:しまだ

本記事の最後に、Rubyist Magazine 読者に向けた本書のプレゼントのお知らせがあります。お見逃しなく!
2025 年 7 月に原書が刊行された “Simplicity: Sustainable, Humane, and Effective Software Development” の日本語版『シンプリシティ―持続可能かつ人間的で効果的なソフトウェア開発』が、2026 年 6 月 2 日にオライリー・ジャパンから刊行になります。翻訳は本原稿の執筆者でもあるしまだ (@snoozer05 ) が務めています。
著者は、古典的名著『達人プログラマー』の共著者、そしてアジャイルソフトウェア開発宣言の署名者の一人として知られる Dave Thomas 氏です。るびま読者向けには、『プログラミング Ruby』(通称「ピッケル本」) や『Rails によるアジャイルな Web アプリケーション開発』といった書籍などで Ruby や Rails を世界に広め、日本 Ruby 会議 2007 で日本の Ruby コミュニティ向けに印象的なクロージングキーノートをしてくれ、そして、今年の Kaigi on Rails で 19 年ぶりに日本の Ruby カンファレンスでキーノートを行うことが発表されている Dave Thomas 氏、と紹介した方が適切かもしれません。
そんな Dave が、改訂ではない書き下ろしとして 11 年ぶりに刊行した書籍が、本書『シンプリシティ』になります。
本書は、私たちが自ら招き込んでしまいがちな「複雑さ」をどう減らし、日々のソフトウェア開発をどう持続可能で人間的なものに保つかを、Dave の実践を通して学ぶ一冊となっています。テクニック集というよりは、日々の仕事に対する「構え」の本であり、そういった意味で『達人プログラマー』の語り直しといった趣もある一冊となっています。
もう一度、世界を変えよう
1 章 シンプリシティへのアプローチ
第 I 部 やることとやり方をシンプルにする
2 章 今すぐ減量を
プラクティス 1 不健全な依存関係を削減する
プラクティス 2 フレームワーク:成分表をよく読む
プラクティス 3 作らずに済んだ機能こそ最高の機能
3 章 プロジェクトをシンプルにする
プラクティス 4 チームを疎結合にする
プラクティス 5 ミーティング、いまいましいミーティング
プラクティス 6 作法:ミーティングを開かなければならない場合
プラクティス 7 スキルを広げる
プラクティス 8 情報を自由に解き放つ
第 II 部 環境をシンプルにする
4 章 あらゆるものを自動化する
プラクティス 9 デスクトップをあなたのために働かせる
プラクティス 10 ターミナルをあなたのために働かせる
プラクティス 11 他のすべてを自動化する
プラクティス 12 エディタを自分のものにする
プラクティス 13 開発マシンのセットアップを自動化する
5 章 「変化を抱擁せよ」
プラクティス 14 実用的なものと趣味的なものを混ぜ合わせる
プラクティス 15 未来で遊び、過去で働く
第 III 部 やり取りをシンプルにする
6 章 ソフトスキル
プラクティス 16 意見の相違はゼロサムゲームではない
プラクティス 17 共感力を鍛える
プラクティス 18 モノへの共感を持つ
プラクティス 19 物語を紡ぐ
第 IV 部 コードをシンプルにする
7 章 データ駆動
プラクティス 20 データに駆動させる
プラクティス 21 テーブルを使ってテストをシンプルにする
プラクティス 22 ステートマシンでロジックをシンプルにする
8 章 コードの現場で
プラクティス 23 ノーコメント
プラクティス 24 TODO すべきか、今すべきか、それが問題だ
プラクティス 25 並べる
プラクティス 26 カンマをぶら下げる
プラクティス 27 ソート
プラクティス 28 縦長は横長に勝る
プラクティス 29 ローカルに保つ
9 章 おわりに本書に出てくる 29 のプラクティスのうち、訳者が特に好きなプラクティスは、「プラクティス 3 作らずに済んだ機能こそ最高の機能」「プラクティス 5 ミーティング、いまいましいミーティング」「プラクティス 18 モノへの共感を持つ」の 3 つです。好きな理由を、それぞれ以下に簡単に書いておきます。
ぜひ、皆さんも本書を読んで、好きなプラクティスを見つけてみてください。
Dave は自身のニュースレター で、本書の出発点は「アジャイルの価値を取り戻す」ことだったと語っています。ここで言う「アジャイル」は、手法やラベルを指す名詞としての「Agile」のことではありません。変化のなかで学び、調整しながら動ける性質——動詞・形容詞としての「アジリティ ( agility )」のことです。
この Dave の主張のうち、もっとも広く知られているのは 2014 年の “Agile is Dead (Long Live Agility)” でしょう。「アジャイル」という言葉が業界用語へと擦り切れていったことを嘆き、動詞としてのアジリティに立ち返ろう——というメッセージは、いまも繰り返し参照されています。
ただ、Dave のこの主張がインターネット上に形として一番最初に残ったのは、それより少し前のことです。それが、2012 年、Dave が東京の Asakusa.rb で行ったトークの記録として掲載された、るびま 0039 号 での以下の記事です。
達人プログラマ Dave Thomas が Asakusa.rb で話するというので聞いてきた
この Asakusa.rb でのトークは、松田さん (@a_matsuda ) の「去年の最後の RubyKaigi で話しそびれたことを話してくれると嬉しい」というリクエストに応えて行われたものでした。なぜそんなリクエストがあったのか。これは、今となっては知らない人も多い経緯かもしれません。
RubyKaigi 1st シーズンのラストとなった日本 Ruby 会議 2011、Dave はもともとキーノートスピーカーとして招待されていました。ですが、東日本大震災の影響もあり、登壇は結果的にキャンセルとなってしまいます。そして、そもそも Dave が「最後の RubyKaigi」になぜキーノートスピーカーとして招かれていたのか。それは、2007 年の Dave のキーノート “The Island of Ruby”——これから来る新しい人たちに「Ruby 道」を見せてあげるんだと語ったあの講演——への、日本の Ruby コミュニティからの「回答」として、Dave に 4 年経った日本の Ruby コミュニティを見てもらいたい、という願いがあったからでした。
けれど、それは残念ながら叶いませんでした。
松田さんのリクエストは、そうした経緯の上で行われたものでした。Asakusa.rb での Dave のトークが、リクエスト通り 2011 年に話されるはずの内容だったのか、本当のところはわかりません。ですが、2011 年に話されるはずだったエッセンスが、時間をかけて Dave の中で昇華・熟成され、一冊の本へと結実した——本書は、そう辿ることもできる一冊だと考えます。
『シンプリシティ』を読むことで、届かなかったはずの 2011 年の Dave の声に十数年越しに触れることができる——日本の Rubyist にとっては、そうした読み方もできるのではないかと思います。
そして、本書の日本語版が刊行されるのと同じ 2026 年に、Dave はKaigi on Rails 2026 のキーノートスピーカーとして、14 年越しの来日を果たします。2026 年は、2007 年に始まった「Ruby 道」の続きが、本と本人の両方で、日本に届く年です。
ぜひ本書『シンプリシティ』を手に、Dave に会いに、Kaigi on Rails に足を運んでもらえると嬉しいです。Dave がどんな話をしてくれるのか、今から楽しみですね :)
出版元であるオライリー・ジャパンさまのご厚意により、るびま読者向け用プレゼントとして書籍を 3 冊ご提供いただけることになりました。
興味を持たれた方は、下記リンク先の応募要件に目を通していただいたうえで、応募締切日までに必要事項をフォームに記入、送信ください。
Rubyist Magazine 読者の皆さまからのご応募をお待ちしております!
(応募多数の場合は抽選となります。また、当選者の発表は書籍の発送をもってかえさせていただきます)
応募締切 (とその後の抽選) から発送まで待てない方は是非、オライリー・ジャパンさまのページ にあるリンク先から紙もしくは電子書籍で本書をご購入ください (Kindle 版の販売予定はありません)。
@snoozer05。Rubyist。株式会社えにしテック代表取締役。一般社団法人日本 Ruby の会理事。 詳しくは https://snoozer05.org。 これまでに携わった Ruby 関連の書籍は『Ruby on Rails パフォーマンスアポクリファ』『Ruby のしくみ』『なるほど Unix プロセス』『Ruby 逆引きレシピ』。ピッケル本 5 版 の翻訳はもう一息…(角谷さんが共訳者に加わってくれました…!)