0033 号 巻頭言

Keep on Going

Rubyist Magazine 第 33 号をお届けする。

今号は、 PragPub 誌に掲載された、Chad Fowler さんへのインタビューの翻訳記事 Chad Fowler on Ruby、 前号に引き続き、桑田さんがおなじみ Rack の仕様を紹介する 海外記事翻訳シリーズ 【第 2 回】 Rack 仕様、 最年少 Ruby コミッタとなった sora_h さんが Ruby 本体のインストール時に行う test-all の並列化について解説する 詳解! test-all 並列化、 まさかの連載再開となったささださんの YARV Maniacs 【第 10 回】 例外処理(初級編)、 一部で大きな反響を呼んだ「Ruby イメージソングコンテスト」について、その運営をされているクレオフーガの西尾さんが紹介する Rubyイメージソングコンテスト、 最近行われた内外の Ruby 関連イベントの参加レポート記事として Ruby Conference 2010 レポートRegionalRubyKaigi レポート (17) 札幌 Ruby 会議 03RegionalRubyKaigi レポート (18) 東京 Ruby 会議 05RegionalRubyKaigi レポート (19) とちぎ Ruby 会議 03RegionalRubyKaigi レポート (20) 名古屋 Ruby 会議 02、 そして Ruby 関連イベント と、久々のボリュームとなっている。


先日、台北で開催された Open Source Developer Conference in TaiWan (OSDC.TW) 2011 に参加してきた。OSDC.TW には 2007 年から参加していて、今年で 5 回目になる。年々規模も大きくなり、今年は 300 名ほどの参加者があったそうだ。 日本からも、Shibuya.pm 方面など数名参加し、発表に加わっていた。

去年は RubyConf Taiwan というイベント内イベントのような形で日本から参加する Rubyist も多かったのだが、今年は RubyConf Taiwan は独立した形で行うことを検討しているらしい。それでも、ihower や xdite という台湾では著名な Rubyist の発表は多くの観客を集めていた。

OSDC.TW を含め、これまで国内・海外合わせて、いくつもの発表を見てきた。さすがにたくさんの発表を見ていると、一つ一つの印象は薄くなるが、特に記憶に残っている発表もいくつかある。 とりわけ、思い出深い発表と言えば、2002年に開催された第2回 Ruby Conference でのまつもとさんのキーノート、「Be Minor, Be Cool」がある。

http://www.rubyist.net/~matz/slides/rc2002/index.html

「Ruby Conference」と言っても、最初の数回は数十人ほどしか参加者がいない、現在の日本で言えば Regional RubyKaigi よりも小さい、むしろ東京都内で開催しているふつうの勉強会と同じ程度の人数しか参加していない程度の、ごくごく小さな集まりである。表題の「Be Minor」というのも謙遜ではない。世界では Ruby はとてもマイナーな言語であり、Rubyist はとてもマイノリティだった。

そしてその場にいた私もマイノリティだった。当時もInternational Conference と銘打ってはいるものの、基本的にはアメリカから参加されてる方が中心で、日本から参加しているのは、まつもとさん以外には、私とすずきひろのぶさんしかいなかった。数十人の中の 3 人、というのは少ない数字ではなかったのかもしれないが、心細いことには変わりがない。ましてや英語の苦手な私にとっては場違い感にあふれていた。

記念すべき第 1 回の RubyConf は興奮のうちに終わりながらも、2 回目になるともう少し現実的なことも考えたくなる。あまりよく聞き取れない英語による発表を聞きながら、心細く、こんなところに来ていてよかったのだろうか、と心配にならないわけでもなかった。

マイノリティはよいものである(こともある)。それはそうかもしれない。しかし、自分がどこでどうするのがいいのか、その手がかりになりそうなものは何も見当たらなく、またロールモデルになりそうな人もまた思いつかない。どうするべきなのだろう。このままでいいんだろうか。そんな疑問を持ちながら発表を聞いていた私に、まつもとさんは、いくつかの具体的な指針を述べる前に、一言告げた。

「We Keep on Going」。このまま前に進もう。進み続けていこう。より高く。より広く。より深く。

別になんということはない言葉だったのかもしれない、とは思う。けれども、その場にいて、同じように(あるいは異なるように)マイノリティであった私には、とても大切なメッセージのように聞こえた。そうか、そうなのか、と腑に落ちた。

だから、今でもこの言葉を大切にしている。そして、迷ったときには、この言葉を思い出すようにしている。


2011 年 3 月 11 日の地震、津波、そして原子力発電所の事故により、 これまで私たちが当たり前だと、当然だと信じていたものごとが、突如として当然ではなくなってしまった。 3 月に予定されていた RubyKaigi2011 の打ち合わせも、使用する予定だった会場から 3 月いっぱいは全ての利用がキャンセルになったと告げられた。東京に住んでいる私ですら、 4 月になっても、あまり落ち着かない日々を過ごしている。 被災された方々には正直に言ってどんな言葉を伝えればよいのかもわからない。これを読まれている方で、まだ普段の生活を取り戻せていない方がいらっしゃれば、心からお見舞い申し上げます。

Keep on Going。前に進むこと。進み続けること。 もちろん全てをこれまで通りに続けられることはないだろうし、またそうすべきでもないだろう。 進むべき「前」とはどちらなのか、ということは改めて考えなければいけない。 しかしながら、これまでと変わらず、進み続けていくのがたいせつなことは変わらない。

まず間近に控えているのは 7 月の RubyKaigi2011 の開催についてだが、会場となる練馬文化センターとは予定通りに進めることを改めて確認した。発表者の選考も無事に終わり、開催に向けて粛々と準備に務める予定である。 が、計画停電や節電の心配もあり、例えば 7 月に空調や電源・ネットワークなどをどこまで使って開催ができるのかどうか、少なからず不安もある。 実際に必要となるかどうかは分からないが、バックアップも検討しなければならないだろう。 それでも、例年以上の素晴らしい Kaigi になるよう、尽力したい。

このような状況ではあるのだが、参加される予定の方々にもぜひお力を貸していただきたい。大変な時期ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。